「クライアントが用意した画像だから」は免責にならない——広告代理店・制作会社の著作権リスクと自衛策

自治体・企業の著作権管理


「クライアント支給の素材で制作・納品したら、後からその画像に著作権の問題が判明した。でも持ってきたのはクライアント。うちには関係ないのでは?」——制作現場でよくある相談です。

結論から言うと、「持ってきたのはクライアント」だからといって、制作会社が完全に免責されるわけではありません。著作権侵害は権利者が「誰に対してでも」差止請求・損害賠償請求できる権利で、侵害物を実際に世に出した(掲載・印刷・配布した)のが制作会社なら、その行為の責任は制作会社にも及びます。本記事では、広告代理店・制作会社・フリーランスが直面するリスクと、実務に組み込める自衛策を解説します。

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クライアントが「自分たちで用意した素材です」と言ったら、信じて使うしかない。それで問題が起きても制作会社の責任になるの?
契約書にサインする手のクローズアップ
クライアントから支給された素材の著作権リスクは、制作者側も負うことがある

1.「クライアントが用意した」が免責にならない理由

ポイントは、差止請求と損害賠償で責任の問われ方が異なる点です。

(1)差止請求は「故意・過失がなくても」対象になる

著作権法112条は、著作権者が「侵害する者・侵害するおそれがある者」に侵害の停止・予防を請求できると定めます。重要なのは、故意・過失がなくても差止請求の対象になり得る点です。クライアント支給素材に問題があっても、それを使った印刷物・Web・広告の配布停止を求められます。

(2)損害賠償は「過失」が問われる

損害賠償(114条・民法709条)は故意・過失の有無が問われます。「知らなかった」が認められれば賠償を免れる場合もありますが、「合理的な注意を払えば知り得た」と判断されれば過失です。合理的な注意とは、素材の出所・ライセンスをクライアントに確認したか、不自然に高品質な画像の出所を確認したか、毎回確認していたか、外注先の素材の確認フローがあったか——といった点です。

(3)「実行者」に責任が及ぶ

侵害物を実際に複製・展示・公衆送信したのは制作会社です。問題の「出発点」がクライアントでも、「実行者」の責任が消えるわけではありません

2.現場で起きる4つのリスクパターン

パターン 典型例 勘所
①出所不明の「社内素材」 「昔からある画像」「前任者の素材集」 入手元・ライセンス不明はリスク。長く営業する企業ほど抱えがち
②ライセンス範囲の超過 Web用素材を大判印刷・商品プリントに転用 スタンダード/エクステンデッドの区分を要確認
③過去案件の素材流用 別クライアントの案件に使い回す 多くは「1ライセンス1プロジェクト」。流用は違反
④外注先が使った素材 下請け・フリーランスが調達した素材 最終納品者(元請け)が責任を問われ得る

共通する自衛の発想は、クライアントや外注先が「言ったこと」を記録に残すことです。「自社撮影です」という説明も、メール・議事録に残しておけば、後の過失の度合いを軽減できます。口頭だけでは証拠になりません。外注には「素材のライセンス証明を納品時に提出」と契約で定めておくと、責任の帰属が明確になります。

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「自社撮影の写真です」と言われたら疑うの?——疑うというより、「言ったことの記録を残す」発想なんだ。後で揉めたとき、それが効いてくる。

3.発覚タイミングが「対応コスト」を決める

2者が契約書を交わしている様子
素材の権利関係を事前に書面で確認することがトラブル防止の基本

対応コストは、発覚タイミングで指数関数的に増えます。

発覚タイミング別の対応コスト(小→大)
①制作中に発見:素材差し替えのみ。コストほぼゼロ
②納品前に発見:修正・再納品。スケジュール調整
③納品後・公開前にクライアントが発見:回収・修正・再納品。信頼に傷
④公開後・外部から指摘:公開停止・回収・対外説明。関係悪化
⑤権利者から請求・訴訟:弁護士費用・和解金・損害賠償・風評

①と⑤では対応コストが何十倍も変わります。「発見のタイミングを早める仕組み」がリスク管理の本質であり、そのためには制作フローの中に確認ステップを組み込むしかありません。

4.実務に組み込む自衛策

完璧な確認は難しくても、「確認しようとしたプロセスを標準化し、記録を残す」ことで、問題発生時の立場が大きく変わります。

(1)契約書に著作権保証条項を入れる

契約書に盛り込む著作権関連条項(例)
・クライアント支給素材の著作権はクライアントが有するか、使用許諾を適法に取得していること
・支給素材に起因する著作権問題はクライアントが全責任を負うこと
・支給素材に起因する損害(回収・やり直し費用等)はクライアントが補償すること

「相手を疑う」のではなく「お互いを守るため責任の所在を明確にする」と説明すれば、多くのクライアントは理解します。この条項の有無で、問題発生後の交渉の出発点がまったく変わります

(2)素材受け取り時の確認フローを標準化する

素材受け取り時の確認チェックリスト
□ 素材の出所(自社撮影・購入先・フリー素材サービス名)
□ ライセンスの種類・範囲(スタンダード/エクステンデッド等)
□ 使用期限(期限付きライセンスの場合)
□ 使用可能な用途・媒体・地域
□ 人物写真ならモデルリリースの有無
□ ロゴ・商標が含まれる場合の使用許諾の有無

口頭確認は証拠になりません。メール・チャット・確認書のいずれかで文字として残すことが必須です。

(3)外注先への発注に著作権条件を明示する

外注先への発注書・業務委託契約書に、「使用素材は第三者の著作権を侵害しないこと」「ライセンス証明を納品時に提出すること」「素材起因の問題と対応費用は外注先が負うこと」を盛り込みます。

(4)納品前に素材リストを確認する

納品前の最終チェックとして、使用素材をリスト化しライセンスを確認します。とくに、複数スタッフが関わった案件、過去素材の流用、外注パーツの組み込み、画像が大量のPDF・冊子・動画は重点確認の対象です。全件の精緻な確認は難しくても、高リスク状況での確認を標準化するだけで効果は大きくなります。

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5.問題が発覚した後の対応フロー

初動の速さと誠実さが、その後の関係と法的リスクを左右します。

著作権問題発覚後の対応ステップ
①即時停止:問題素材を含む公開物の掲載・配布を止める
②クライアントへ報告:事実関係と対応状況を速やかに共有
③素材の出所確認:書面で出所・ライセンスを確認
④権利者の特定:逆画像検索・業界団体への相談等
⑤弁護士へ相談:方針決定前に法的助言を得る
⑥修正・再納品:権利者と合意後、差し替え版を準備
⑦再発防止:確認フローの見直しと社内共有

「クライアントの素材が原因だから対応してもらえばいい」と割り切りたくなりますが、関係維持の観点では「一緒に対処するパートナー」として動くことが長期的な信頼につながります。法的責任の所在は交渉・裁判で明確にしつつ、外部対応は共同で行う姿勢が大切です。

6.まとめ——「確認した事実」だけが守りになる

この記事の5つのポイント
①クライアント支給素材を使った制作会社も、差止請求の対象になり得る
②リスクは4つ:出所不明素材・ライセンス超過・素材の流用・外注素材の問題
③発覚が早いほど対応コストは小さい。フローへの確認組み込みが本質
④自衛策の核は3つ:契約書の著作権保証条項・素材確認フローの標準化・記録の保管
⑤発覚後は「止める→報告→確認→弁護士相談」の順で動く

「渡されたから使った」という前提の業務は、制作会社として非常にリスクが高い状態です。一度のトラブルで失う信頼と復旧コストは、事前の確認フロー整備とは比較になりません。まず今日できるのは、直近案件で使っている素材の出所が確認できているかをチームで棚卸しすることです。

本記事は2026年5月時点の情報に基づきます。著作権法の解釈・各サービスの規約は変更される場合があります。個別案件は専門家(弁護士・弁理士)にご相談ください。

よくある質問(FAQ)

Q1. クライアントが著作権侵害の素材を提供してきた場合、制作会社も責任を負いますか?
・A. はい。実際に侵害物を制作・公開した者として責任を問われます(著作権法112条・民法709条)。「クライアントが提供した」事実は情状として考慮され得ますが、確認義務を怠れば過失責任は免れません。
Q2. クライアント支給素材の著作権確認はどこまでやればよいですか?
・A. 合理的な確認義務として、①素材の出所・ライセンスの書面確認、②不自然に高品質な画像の疑義確認、③毎回確認するフロー整備が求められます。契約書に「支給素材の著作権はクライアントが保証する」旨を明記することも重要です。
Q3. 素材の問題が納品後に発覚した場合の対応フローは?
・A. ①即時に使用・公開停止、②クライアントへの報告と権利者への対応、③損害範囲の確定(回収・削除)、④責任分担の書面化、の順で動きます。初動が遅れるほど損害が拡大します。
Q4. クライアントが「自社撮影」と言っていたが、実はネット画像だった場合は?
・A. 虚偽申告をしたのはクライアントであり、「そう告げられた」記録(メール等)があれば過失の度合いは軽減されます。ただし差止請求は受け得るため、まず使用を停止し、弁護士に相談のうえ交渉します。契約書の著作権保証条項がここで有効に機能します。

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