📖 このテーマの全体像は 著作権の基礎・権利の種類 完全ガイド でまとめています。
著作隣接権とは、著作物を世の中に「伝達する人」——実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者——に与えられる権利です。著作権法第89条以下に規定され、作品を創作した著作者の権利とは別個に発生します。
音楽・動画を扱う実務では、この権利の見落としが定番の事故になっています。「JASRACに払ったのにレコード会社から警告が来た」「フリーBGMだと思ったら演奏者の権利が残っていた」——原因はほぼ共通で、著作権と著作隣接権が別の権利であることを知らなかった、という一点に尽きます。
この記事では、著作隣接権の基本、4つの権利主体それぞれの権利内容、保護期間、そして音楽・動画利用の実務で「誰に許諾を取ればいいか」まで解説します。
・著作隣接権の定義——「創作する人」と「伝達する人」の区別
・権利を持つ4者(実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者)
・それぞれの権利内容の一覧表と保護期間(70年/50年)
・1枚のCDに重なる権利——JASRACと原盤権の関係
・動画制作・店舗BGM・イベントでの実務チェックポイント

1.著作隣接権とは——「伝達する人」を守る権利
著作隣接権は、著作物の創作者ではないが、著作物を公衆に伝達するうえで重要な役割を果たす者に与えられる権利です(著作権法第4章・第89条以下)。
歌そのものを作るのは作詞家・作曲家です。しかしその歌が世に届くには、歌手が歌い、レコード会社が録音・製作し、放送局が流す——という伝達行為が欠かせません。この伝達行為には創作に準じた価値があるとして、著作権とは別に保護されています。
権利の発生に手続きは不要です。実演・録音・放送が行われた時点で自動的に発生します(無方式主義・第89条第5項)。著作権の発生と同じ仕組みで、登録も申請もいりません。
著作権との関係——両者は並存する
最重要ポイントは、著作権と著作隣接権は同じコンテンツの上に同時に存在することです。
| 1枚のCDに存在する権利 | 権利者 | 権利の種類 |
|---|---|---|
| 楽曲(メロディ)・歌詞 | 作曲家・作詞家 | 著作権 |
| 歌唱・演奏 | 歌手・演奏者(実演家) | 著作隣接権 |
| 録音された音源(原盤) | レコード製作者 | 著作隣接権(原盤権) |
CD音源を利用するには、この3層すべての許諾が必要です。どれか1つを処理しても、残りの権利の侵害になります。著作権側の権利の全体像は「著作財産権とは?11種類の一覧と実務での使い方」で整理しています。
2.権利を持つ4者と権利の内容
著作隣接権を持つのは、①実演家 ②レコード製作者 ③放送事業者 ④有線放送事業者の4者です(第89条)。それぞれ権利の内容が異なります。
①実演家——歌手・俳優・演奏者・ダンサーなど
実演家には、財産的な権利と人格的な権利の両方があります。
| 権利 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 録音権・録画権 | 第91条 | 実演を録音・録画することを許諾する権利 |
| 放送権・有線放送権 | 第92条 | 実演を放送・有線放送する権利 |
| 送信可能化権 | 第92条の2 | 実演をネット配信可能な状態に置く権利 |
| 譲渡権・貸与権等 | 第95条の2以下 | 録音物の譲渡・商業用レコードの貸与に関する権利 |
| 実演家人格権 | 第90条の2・90条の3 | 氏名表示権・同一性保持権(公表権はない) |
実演家には「ワンチャンス主義」という特徴的なルールがあります。映画(映像作品)への録音・録画をいったん許諾すると、その後の映像の複製・配信には原則として実演家の許諾が不要になる仕組みです(第91条第2項)。出演契約の最初の1回がすべてを決めるため、「ワンチャンス」と呼ばれます。
②レコード製作者——音を最初に固定した者
レコード製作者は「音を最初に固定した者」、実務ではレコード会社や音楽制作会社です。複製権(第96条)、送信可能化権(第96条の2)、譲渡権、貸与権、商業用レコードの二次使用料を受ける権利(第97条)を持ちます。この権利のかたまりが、実務で「原盤権」と呼ばれるものの中核です。
③放送事業者・④有線放送事業者
放送事業者は、放送の複製権(第98条)、再放送権・有線放送権(第99条)、送信可能化権(第99条の2)、テレビジョン放送の伝達権(第100条)を持ちます。テレビ番組を録画してYouTubeにアップする行為は、番組内の著作権とは別に、放送事業者の複製権・送信可能化権の侵害にもなります。有線放送事業者(ケーブルテレビ等)にもほぼ同様の権利があります(第100条の2以下)。
3.保護期間——実演・レコードは70年、放送は50年
著作隣接権の保護期間は権利の種類ごとに起算点と長さが決まっています(第101条)。
| 権利 | 起算点 | 保護期間 |
|---|---|---|
| 実演 | 実演が行われた時 | 70年 |
| レコード | 発行された時(未発行なら音の固定時) | 70年 |
| 放送・有線放送 | 放送が行われた時 | 50年 |
実演とレコードの保護期間は、2018年12月30日施行のTPP関連著作権法改正で50年から70年に延長されました。著作権(原則として著作者の死後70年)と起算点が違う点に注意してください。実演・レコードは「行為・発行の時」から数えます。
実務への影響も具体的です。たとえば1960年代のレコード音源には、作曲家の著作権が切れていても原盤権が残っているケースと、原盤権は切れたが著作権が残っているケースの両方があります。「古い音源だから自由に使える」という判断は、著作権と隣接権の両方の期間を確認してからでないと危険です。
4.実務で「誰に許諾を取るか」——場面別の整理
音楽利用の許諾は、「楽曲の著作権」と「音源の隣接権(原盤権)」を分けて考えると迷いません。
| 利用場面 | 楽曲の著作権 | 音源の隣接権 |
|---|---|---|
| 市販CD音源を動画・CMに使う | JASRAC等に申請 | レコード会社(原盤権者)の個別許諾が必要 |
| 楽曲を自分たちで演奏・録音して使う | JASRAC等に申請 | 不要(自分が実演家・製作者になる) |
| ライブイベントで楽曲を演奏する | JASRAC等に申請 | 不要(生演奏に原盤は使わない) |
| フリーBGM素材を使う | サイトの利用規約=作曲者兼原盤権者による一括許諾を確認 | |
⚠️ よくある事故パターン
- 「JASRACに払えば市販CDも使える」——JASRACが管理するのは楽曲の著作権だけ。CD音源の原盤権は別途レコード会社の許諾が必要です
- 「カバー演奏なら完全に自由」——原盤権は回避できますが、楽曲の著作権処理は必要です
- 「テレビ番組の一部だから引用でOK」——引用の要件を満たさない切り抜きは、著作権と放送事業者の隣接権の両方を侵害します
動画・配信でのBGM選びの実務は「YouTube・動画BGMの著作権完全ガイド——フリー音楽サービス6選」で、ネット配信に関わる送信可能化権の仕組みは「公衆送信権・送信可能化権をわかりやすく解説」で詳しく扱っています。
5.ケース別Q&A——その利用、隣接権の処理は済んでいますか
音楽・映像の利用場面ごとに、著作権と著作隣接権のどちらが問題になるかを整理します。
| 場面 | 判定 | 必要な処理 |
|---|---|---|
| 店舗でCD・サブスク音源をBGMとして流す | 要手続き | 楽曲の演奏権はJASRAC等に申請。市販CD再生の隣接権は、店内再生に限れば原則及ばないが、業務用BGMサービス契約なら手続き一式が含まれ実務が楽 |
| 自社イベントの映像に市販曲を入れて配信 | 要許諾 | 楽曲の著作権(複製・公衆送信)+原盤権の両方。配信は「送信可能化」にあたり実演家・レコード製作者の権利が働く |
| プロに演奏を発注し、録音して広報動画に使う | 契約で処理 | 楽曲の著作権処理+演奏者(実演家)の録音権・送信可能化権を出演契約で許諾取得。原盤権は自社に発生 |
| テレビ番組の一場面をSNSで共有 | 原則✕ | 番組の著作権に加え、放送事業者の複製権・送信可能化権の侵害。引用の要件を満たす場合を除き不可 |
| 保護期間が切れたクラシック音源を使う | 要確認 | 作曲家の著作権切れでも、演奏・録音が新しければ実演・レコードの隣接権(70年)が残る。「曲が古い」と「音源が古い」は別 |
最後のクラシック音源のケースは、隣接権の理解度がそのまま結果を分けます。ベートーヴェンの楽曲自体はパブリックドメインですが、2010年録音の演奏音源には実演家とレコード製作者の隣接権が2080年まで残ります。自由に使えるのは、楽譜から自分で演奏する場合か、隣接権も切れた古い音源・権利処理済みの音源ライブラリを使う場合です。
権利の窓口——集中管理団体
実務の許諾窓口も著作権と隣接権で分かれています。楽曲の著作権はJASRAC・NexToneが管理しています。一方、実演家の権利は芸団協CPRA(実演家著作隣接権センター)、レコード製作者の権利は日本レコード協会が、放送二次使用料などの分野で集中管理しています。ただし動画・広告へのCD音源利用(原盤権の個別許諾)は集中管理の対象外が基本で、レコード会社への個別交渉になります。「JASRACに聞いたからOK」で完結しない理由がここにあります。
6.まとめ
著作隣接権は、著作物を「伝達する人」——実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者——を守る権利です。実務で覚えておくべき要点は3つです。①著作権とは別個の権利で、両方の処理が必要。②市販音源はJASRACだけでは足りず、原盤権の許諾がいる。③保護期間は実演・レコード70年、放送50年で、著作権とは起算点が違う。音楽・映像を扱うときは「作った人」と「伝えた人」の両方を思い浮かべる——それが著作隣接権の実務感覚です。
よくある質問(FAQ)
・A. 著作物を伝達する人(実演家・レコード製作者・放送事業者・有線放送事業者)に与えられる権利です。著作権法第89条以下に規定され、著作権とは別個に発生します。
・A. 著作権は「創作した人」、著作隣接権は「伝達した人」の権利です。1枚のCDには両方が同時に存在し、利用には全権利者の許諾が必要です。
・A. 実演は実演時から70年、レコードは発行から70年、放送は放送から50年です(第101条)。実演・レコードは2018年の法改正で70年に延長されました。
・A. JASRAC等への著作権処理に加え、レコード会社が持つ原盤権(著作隣接権)の許諾が別途必要です。
・A. あります。氏名表示権(第90条の2)と同一性保持権(第90条の3)です。著作者人格権と違い、公表権はありません。
・A. 不要です。実演・録音・放送の時点で自動的に発生します(無方式主義・第89条第5項)。
・A. 実演家が映像作品への録音・録画を一度許諾すると、以後の複製・配信には原則許諾不要になるルールです(第91条第2項)。出演契約の最初の条件設定がすべてを決めます。
・A. 会場での再生だけなら隣接権は原則働きません。楽曲側も非営利・無料・無報酬なら許諾不要(第38条)ですが、営利性があればJASRAC等への手続きが必要です。




