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パブリシティ権とは、氏名や肖像が持つ「顧客吸引力」——人を引きつけて商品を売る力——を、本人が独占的に利用できる権利です。著作権法には書かれていません。判例の積み重ねで認められてきた権利で、最高裁は平成24年のピンク・レディー事件判決で初めてその内容を明確にしました。
いま、この権利への注目が急上昇しています。生成AIで有名人の顔や声を再現できるようになり、「本人そっくりの広告」「AIが歌う本人の声」が現実の問題になったからです。広告・広報・コンテンツ制作に関わるなら、パブリシティ権は避けて通れません。
この記事では、パブリシティ権の基本から肖像権との違い、侵害になる3つの類型(最高裁基準)、AI時代の新しい論点、企業・自治体の実務チェックポイントまで解説します。
・パブリシティ権の定義と法的根拠(明文規定はない)
・肖像権・著作権との違い(比較表つき)
・侵害になる3類型——ピンク・レディー事件最高裁判決
・AIによる声・肖像の再現はどう扱われるか
・広告・広報で人物写真を使う前のチェックリスト

1.パブリシティ権とは——法律に書かれていない権利
パブリシティ権は、氏名・肖像等が持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利です。最高裁判所は平成24年2月2日のピンク・レディー事件判決で、この権利を「人格権に由来する権利」と位置づけました。
重要なのは、著作権法・民法のどこを探しても「パブリシティ権」という条文はないことです。マーク・レスター事件(東京地裁昭和51年6月29日判決)以来、約50年にわたる裁判例の積み重ねで形づくられてきました。条文がないため「どこからが侵害か」の線引きは判例基準に頼ることになります。この基準は後述する3類型です。
権利の主体は主に芸能人・スポーツ選手など、氏名や肖像そのものが経済的価値を持つ人です。タレントの写真1枚が広告の売上を左右する——その経済的価値を無断で横取りさせない、という発想です。
2.肖像権・著作権との違い
結論から言うと、肖像権は「人格を守る権利」、パブリシティ権は「経済的価値を守る権利」です。同じ「人の写真」をめぐる権利でも、守っている利益が違います。
| パブリシティ権 | 肖像権 | 著作権 | |
|---|---|---|---|
| 守る利益 | 顧客吸引力という経済的価値 | みだりに撮影・公表されない人格的利益 | 創作的表現(写真・文章等) |
| 主な主体 | 芸能人・スポーツ選手など | すべての人 | 撮影者・制作者 |
| 根拠 | 判例(明文規定なし) | 判例(明文規定なし) | 著作権法 |
| 典型的な侵害 | 無断で広告・商品に使用 | 無断撮影・無断公開 | 無断複製・無断転載 |
実務ではこの3つが1枚の写真に同時に乗ります。タレントの写真を広告に使うなら、①写真の著作権者(カメラマンや事務所)、②本人のパブリシティ権、の両方の許諾が必要です。どちらか一方では足りません。一般人が写った写真の扱いは写真の肖像権はどこまで?一般人・写り込み・SNSの判断基準で詳しく解説しています。
3.侵害になる3類型——ピンク・レディー事件の最高裁基準
最高裁は、氏名・肖像の使用が「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」場合に限ってパブリシティ権侵害になるとし、次の3類型を示しました(最判平成24年2月2日・民集66巻2号89頁)。
① 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合
例:ブロマイド、写真集、フィギュア
② 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合
例:Tシャツ・マグカップへのプリント、パッケージへの使用
③ 肖像等を商品等の広告として使用する場合
例:無断でタレント写真を広告・チラシ・LPに掲載
逆に言えば、3類型に当たらない使用は原則として適法です。ピンク・レディー事件自体、週刊誌がダイエット法の解説記事に振り付け写真を白黒で掲載したケースで、最高裁は「記事の内容を補足する目的」であって専ら顧客吸引力の利用が目的ではないとして侵害を否定しました。報道・論評・研究での使用が守られているのはこのためです。
ただし適法になるのはパブリシティ権の話だけです。写真そのものの著作権処理は別に必要で、こちらは引用の要件を満たすかどうかで判断します。
判例で見る「侵害になった例・ならなかった例」
基準を体感するには実例が早道です。代表的な裁判例を並べます。
| 事件 | 使われ方 | 結論 |
|---|---|---|
| おニャン子クラブ事件(東京高判平成3年9月26日) | メンバーの写真を無断でカレンダーにして販売 | 侵害。肖像そのものを商品化(類型①) |
| ブブカスペシャル7事件(東京高判平成18年4月26日) | アイドルの私服写真等を雑誌のグラビア的企画に多数掲載 | 侵害。記事は名目で実質は写真集に近いと評価 |
| ピンク・レディー事件(最判平成24年2月2日) | ダイエット法の解説記事に振り付け写真を白黒で掲載 | 適法。記事内容の補足目的で「専ら」基準を満たさない |
分かれ目は「写真が主役か、情報が主役か」です。同じ雑誌への掲載でも、報道・解説の素材なら適法、写真自体を売り物にすれば侵害——ブブカ事件とピンク・レディー事件の対比がそのまま実務の判断材料になります。
4.「物」のパブリシティ権は認められない
競走馬の名前をゲームに無断使用された事件で、最高裁は物の名称・イメージにはパブリシティ権を認めないと判断しました(ギャロップレーサー事件・最判平成16年2月13日)。パブリシティ権は人格権に由来するため、人でない「物」には発生しない、という理屈です。
したがって、有名な建物・車・動物などを撮影した写真の利用は、パブリシティ権の問題にはなりません。ただし建物のデザインの著作権、商標権、施設の撮影規約など別の制約は残ります。「パブリシティ権がない=自由に使える」ではない点に注意してください。
5.AI時代の論点——声と「生成された肖像」
検索でパブリシティ権への関心が急増した背景には、生成AIがあります。論点は2つです。
①AIが再現した「声」は守られるか
声そのものを保護する明文規定は、著作権法にもパブリシティ権の判例にもまだありません。しかし声優・歌手の声をAIで学習・再現し無断公開する事例が相次ぎ、2024年には声優有志による「NOMORE無断生成AI」運動が起きました。日本俳優連合も法整備を求める提言を出しています。
現状の実務では、①声に顧客吸引力があればパブリシティ権侵害の類推、②不正競争防止法(商品等表示の混同)、③不法行為(民法709条)——の組み合わせで争われる構図です。「条文がないから自由」ではなく、「複数の法理で違法になりうるグレーゾーン」と理解するのが正確です。
②AIで生成した「本人そっくりの画像」
実在の人物をプロンプトに指定して生成した画像を広告や商品に使えば、撮影した写真と同じくパブリシティ権の3類型で判断されます。「実写ではなくAI生成だから大丈夫」という理屈は通りません。ディープフェイク広告はすでに詐欺被害としても社会問題化しており、プラットフォーム各社が削除対応を進めています。AI生成物と著作権の全体像はAI生成画像の著作権(2026年版)で整理しています。
6.企業・自治体の実務チェックポイント
広報・マーケティング・制作の現場でパブリシティ権が問題になるのは、ほぼ次の5場面です。公開前にチェックしてください。
① 広告・チラシ・LPに著名人の写真・名前を使っていないか(契約範囲外の流用も含む)
② タレント起用契約の期間・媒体・地域の範囲内か(期限切れ素材の使い回しが頻出事故)
③ ストックフォトの人物写真にモデルリリース(肖像使用許諾)があるか
④ 社内資料・プレゼンに芸能人画像を「装飾」として貼っていないか(外部公開で事故化)
⑤ イベント登壇者・インタビュー対象者から掲載範囲の同意を書面で取ったか
特に②は組織で起きやすい事故です。契約が切れたタレントのポスターが支店に貼られたまま、Webの古いバナーが残ったまま——担当者の異動で「いつまで使えるか」の情報が失われると、侵害状態に気づけません。引き継ぎ時の画像リスクと同じ構造です。
タレント・インフルエンサー起用契約で確認する5点
侵害の多くは「無断使用」ではなく「契約範囲の逸脱」から生まれます。起用契約では最低限、次の5点を文面で確定してください。
① 期間:使用開始日と終了日。終了後の掲載物の扱い(即時撤去か在庫許容か)
② 媒体:Web・SNS・印刷物・屋外広告・動画のどこまでか。「Web一式」のような曖昧表現は避ける
③ 地域:国内限定か、海外向け配信を含むか
④ 二次利用:切り抜き・加工・過去素材の再利用の可否
⑤ SNS運用:公式アカウント以外(社員個人・代理店)の投稿に使えるか
インフルエンサー起用では「本人が投稿する」ことと「企業が本人の写真を広告配信に使う」ことは別の許諾です。投稿の二次利用(広告クリエイティブ化)を口頭で済ませるとトラブルの典型パターンになります。外注制作物の権利帰属と同じく、契約書で書面化するのが原則です。
7.まとめ
パブリシティ権は条文のない判例上の権利ですが、侵害の基準は明確です。「専ら顧客吸引力を利用する目的」——商品化・差別化・広告の3類型に当たるかどうか。広告や商品に人の氏名・肖像を使うときは、写真の著作権とは別に本人の許諾を確認してください。AI生成でも理屈は同じです。
よくある質問(FAQ)
・A. 書かれていません。判例の積み重ねで認められた権利で、最高裁は平成24年のピンク・レディー事件判決で人格権に由来する権利と位置づけました。
・A. 理論上はありますが、実際に問題になるのは氏名・肖像に顧客吸引力がある場合です。一般人の写真の無断利用は通常、肖像権・プライバシーの問題として扱われます。
・A. 使えません。写真の著作権が自分にあっても、写っている人物のパブリシティ権は別です。本人・事務所の許諾なく商業利用すれば差止め・損害賠償の対象になります。
・A. 宣伝や商品化など顧客吸引力を利用する目的なら、侵害と判断される可能性が高いです。不正競争防止法や民法709条による保護も並行して議論されています。
・A. 死者のパブリシティ権は判例上確立しておらず、遺族・事務所が管理を続けている例が多いのが実情です。実務では生前と同様に許諾を取るのが安全です。
・A. なりません。最高裁基準では「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」場合に限り侵害です。ただし写真自体の著作権処理は別途必要です。




