📖 このテーマの全体像は 素材の商用利用 完全ガイド でまとめています。
結論から言うと、人物写真の掲載可否は「本人を識別できるか」と「撮影・公開が社会生活上の受忍限度を超えるか」の2つで判断します。肖像権という条文は法律に存在しませんが、最高裁は「みだりに自己の容ぼう等を撮影されない自由」を憲法13条に基づいて認めており(京都府学連事件・最大判昭和44年12月24日)、無断撮影・無断公開は損害賠償の対象になります。
広報誌のイベント写真、会社サイトの社員紹介、SNSの街角スナップ——人物が写る場面は日常業務にあふれています。この記事では「どこまでならOKか」を、判例の基準と実務の運用に分けて解説します。
・肖像権の法的根拠と2つの判断軸(識別可能性・受忍限度)
・写り込み・後ろ姿・集合写真はどこまでOKか
・同意の取り方——イベント・学校・社内の実務パターン
・モザイク加工はどこまで有効か
・侵害したとき・されたときに起きること
・個人情報保護法との二重チェック

1.肖像権とは——条文はないが判例で確立した権利
肖像権は、みだりに自分の容ぼう・姿態を撮影されたり、撮影された写真を公表されたりしない人格的利益です。著作権法にも民法にも明文規定はなく、判例で認められてきました。
出発点は京都府学連事件(最高裁昭和44年12月24日大法廷判決)です。最高裁は憲法13条を根拠に「承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由」を認めました。その後、和歌山毒物カレー事件の報道をめぐる判決(最判平成17年11月10日)で、現在の実務の中心となる基準——受忍限度論——が示されます。
ポイントは、無断撮影・公開が常に違法になるわけではないことです。最高裁は「撮影・公表が社会生活上受忍の限度を超える場合に違法となる」とし、①撮影された人の社会的地位、②撮影の場所、③撮影の目的、④態様、⑤必要性——を総合考慮するとしました。「どこまでOKか」の答えは、この考慮要素への当てはめで決まります。
2.「撮影」と「公開」は別の問題
実務で混同されやすいのが、撮る行為と載せる行為の区別です。撮影段階で適法でも、公開段階で違法になることがあります。
京都府学連事件が守ったのは「みだりに撮影されない自由」、カレー事件判決が扱ったのは撮影に加えて「公表」の違法性でした。実務の感覚では、公開のほうがハードルが高いと考えてください。撮影は一瞬・限定的ですが、Web公開は不特定多数に半永久的に届くため、同じ写真でも受忍限度の評価が厳しくなります。
組織の運用に落とすと次の形になります。
・撮影時:イベントでは撮影告知を掲示。個人を狙った撮影はその場で一声かける
・選定時:特定個人が主役級に写ったカットは同意の有無を確認してから採用
・公開時:媒体(紙・Web・SNS)ごとに同意範囲と照合。SNSは拡散前提で最も慎重に
・公開後:本人から削除依頼があれば、適法でも原則応じる(信頼優先)
3.ケース別の判断——写り込み・後ろ姿・集合写真
実務で迷う典型ケースを、2つの判断軸(識別可能性×受忍限度)で整理します。
| ケース | 判断の目安 |
|---|---|
| 風景写真への小さな写り込み | ○ 問題になりにくい。人物が「風景の一部」で主役でなければ受忍限度内 |
| 後ろ姿・顔が写っていない | ○ 原則OK。ただし服装・体型・場所から本人を特定できるなら配慮 |
| イベントの全景・観客席 | ○〜△ 全景はOK寄り。特定の人にピントが合った切り抜きは△ |
| 特定人物が主役のスナップ | △ 無断公開はリスク。本人の同意を取るかぼかし加工 |
| 子どもの写真 | △ 保護者の同意が実務上必須(学校・自治体広報は特に) |
| ネガティブな文脈での使用 | × 「混雑」「マナー違反」等の例示に特定個人を使うのは高リスク |
迷ったら「自分がこの写り方・使われ方をされたら嫌か」ではなく、「本人が特定でき、かつ本人が予期しない使われ方か」で判断してください。感覚ではなく2軸に戻るのがコツです。
4.同意の取り方——実務の3パターン
同意は口頭でも法的には有効ですが、後から「言った・言わない」になるため書面か記録が原則です。組織の実務は次の3パターンに集約されます。
① 個別同意書:社員紹介・インタビュー・モデル起用。氏名・使用媒体・期間を明記した書面(肖像使用同意書)を取る
② 掲示による包括告知:イベント・セミナー。「本イベントの様子は撮影し、広報物・Webに掲載します」を受付・会場に掲示し、申込ページにも記載
③ 保護者同意:学校行事・子ども向けイベント。年度初めの一括同意書+掲載前の個別確認の二段構え
重要なのは同意の「範囲」を記録することです。「広報誌はOKだがSNSは聞いていない」——このズレが後のトラブルの大半を占めます。誰が・いつ・どの媒体まで同意したかを記録に残してください。同意の記録が引き継がれず担当者の異動で消える問題は、自治体SNSの確認記録で扱った構造と同じです。
5.モザイク・ぼかし加工はどこまで有効か
結論:本人を識別できないレベルまで加工すれば、肖像権の問題はほぼ解消します。判断軸の1つ目(識別可能性)を消すからです。
ただし「加工した事実」ではなく「識別できなくなったか」が基準です。目元に細い黒線を入れただけ、解像度を少し下げただけ——知人が見れば分かる程度の加工は効果がありません。顔全体のモザイク、頭部全体のぼかし、シルエット化まで行えば安全圏です。
なお、加工で肖像権をクリアしても、写真自体の著作権・背景に写る著作物(ポスター・キャラクター等)の処理は別問題として残ります。画像・スクショ利用の全体ルールは画像・スクショ引用のルールを参照してください。
6.侵害するとどうなるか・されたらどうするか
肖像権侵害に刑事罰はありません。責任は民事で、①損害賠償(民法709条・710条。慰謝料相場は数万〜数十万円)、②削除請求、③SNSでは発信者情報開示請求を経た請求——が典型です。組織が加害側になった場合、金額より「無断掲載した組織」という信用ダメージが本体です。
逆に自分・自組織の写真を無断使用された場合は、①スクリーンショットとURLで証拠保全、②プラットフォームの通報フォームで削除請求、③悪質なら発信者情報開示・損害賠償の順で対応します。
7.個人情報保護法との二重チェックを忘れない
組織が見落としがちなもう1つの規制が個人情報保護法です。本人を識別できる顔写真は「個人情報」に該当します(個人情報保護法2条1項)。肖像権をクリアしても、こちらの手当てが別に必要です。
企業・自治体が社員紹介や広報で顔写真を扱う場合、①利用目的の特定・通知(17条・21条)、②本人同意のない目的外利用の禁止(18条)、③Web掲載=第三者提供に準じた慎重な取り扱い——が求められます。自治体は個人情報保護法の行政機関等向け規律と各自治体の運用基準も重なります。
実務上は「肖像権の同意書」に利用目的・掲載媒体・保管期間を書き込み、個人情報の同意を兼ねる書式にするのが効率的です。同意書が2枚に分かれて片方だけ取得漏れ、という事故を防げます。
8.まとめ
肖像権の判断は2軸に尽きます。①本人を識別できるか、②撮影・公開が受忍限度を超えるか。写り込みは原則セーフ、主役級の無断公開はリスク、迷ったら同意かぼかし。そして組織なら、同意の範囲を記録に残すこと。有名人の写真の商業利用はさらにパブリシティ権が乗るため、パブリシティ権とは?肖像権との違い・判例をあわせて確認してください。
よくある質問(FAQ)
・A. 本人を特定できなければ問題になる可能性は低いです。服装・体型・場所から特定できる場合は配慮してください。
・A. 風景の一部としての小さな写り込みは受忍限度内とされ問題になりにくいです。特定人物が主役に見える場合はぼかすか掲載を控えてください。
・A. 実務では①会場での撮影・掲載告知の掲示、②大きく写る人への個別確認、③子どもは保護者同意、の組み合わせが標準です。
・A. 本人を識別できない程度まで加工すればほぼ解消します。知人が見れば分かる程度の加工では不十分です。
・A. 刑事罰はありません。損害賠償(民法709条・710条)や削除請求など民事責任の問題になります。
・A. モデルリリース取得済みなら規約の範囲内で使えます。ただしセンシティブな文脈での使用は禁止されていることが多く、用途制限の確認が必要です。



